中村太地六段 最後の感想戦が終わった。 2人の意志や情熱を宿していた駒たちも今は役割を終え、羽生の流麗な所作によって駒箱へと収められていく。そして盤上中央へと置かれ、両者は深々と一礼する。 終わった。もうすべて終わった。先に立ち上がった羽生は関係者に一礼して対局室を後にする。続いた中村は数秒間、目を閉じて立ち尽くしていた。噛み締めているのはどんな記憶なのだろうか。終局から1時間以上が経過した後で、初めて見せた敗北の表情だった。 中村太地六段が羽生善治王座に挑んだ第61期王座戦5番勝負の最終局は、羽生が制し防衛に成功した。同一タイトル獲得21期の歴代最多記録を樹立し、シリーズは幕を閉じた。羽生は顔色を変えず勝負を振り返る。 「模様が悪いと思いながら指していました。(指し手の構想に)成算があったわけではないし、自信を持って指していたわけではないです。5番勝負は手数の長い将棋もありましたし、