賞を受け取ると言っただけで騒ぎになった。今度は12月10日の授賞式に出るのか出ないのかで関係者をやきもきさせている。今年のノーベル文学賞に決まったミュージシャンのボブ・ディランのことである。受賞理由として、スウェーデン・アカデミーが述べたような「ホメロスやサッフォーにも比する<現代の吟遊詩人>」という評価はどこから来るのか。その答えは、彼の歌詞を英語で味わうことで浮かび上がってくるかもしれない。東京学芸大学の小澤英実准教授に寄稿してもらった。 変貌を続けるボブ・ディラン ボブ・ディランは公民権運動、冷戦、ベトナム戦争などで緊迫した社会情勢にあった1960年代初頭の米国で、「風に吹かれて」(Blowin’ In The Wind)や「戦争の親玉」(Masters of War)といったプロテスト・ソングを歌い、一躍、「われらの世代の代弁者」「アメリカの良心」として聴衆に熱く迎え入れられた。