著: 永井玲衣 どこを見ても、ひとがいる。どこを通っても、何かの工事をしている。どこを歩いても、ひとりになれなくて、それでいてさみしくて、心細い街。 それがわたしの生まれ育った、渋谷と呼ばれる街なのだった。 駅前の巨大歩道橋、どこを歩いているかわからなくなる ふるさとは、永遠であると言われる。現在の中に過去が封じ込められ、不変で固定化された風景。飽き飽きした気分になりながらも、どこか安心感を与えてくれるなつかしい単調さ。 だが、わたしのふるさとは流動している。決してとどまることなく、流れつづけ、かつてあったものは忘れ去られていく。街を歩くひとびとと、二度とまた巡り会うことはできず、わたしたちは互いに目を合わせもしない。 空席がすばやく埋まる東京でだれが消えたか思い出せない(木下龍也) 思い出せないということが、絶えず思い出される街が渋谷だ。店舗が目まぐるしく変わるだけではない。最近の再開発
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