大学を卒業後、生命保険会社に新卒で入社したは星海は、今年で入社2年目を迎えていた。 オフィスは多摩市の本社にあり、その中のお客様サービス部名義変更チームに配属され勤務していたが、三船星海(みふねせいかい)は毎日些細な出来事から仕事のミスを繰り返し、課長である阿久津(あくつ)に呼び出される日々であった。 「これ、これ、わ、か、り、ま、す、か?」 阿久津の低い呻き声のような地声が星海の胸に響く。 6列あるシマの中央に座っている阿久津は、自分のデスクの前に立ったまま、小刻みに震えている星海を下から睨み上げている。星海はぐっと拳を握りしめ、声を出せ、謝罪の声を出せ、と自らに問い続けていた。 「……昨日不備照会を出した書類です」 「……『です』じゃねえよ。オレ言ったよね? こことここの不備直しとけって? 同じこと何回言わせんだよ!」 阿久津の怒声がフロアに響くと、仕事のパソコンに集中しようと努力して