通天閣の真下、僕は、青背景黄色字のこてこて手書きフォントに目を奪われていた。 「秋には涅槃の旅が似合う…命ドブ捨て激闘紀行傑作戦」 意味不明と意味深の境界にある文句である。大阪でスパイスカレーが流行っており、カレー戦国時代の様相を呈していると東京で聞きつけて、ただカレーを食べるためだけに大阪にやって来た僕にとって、この謎文句は真に迫る何かであることのように思えた。涅槃といえばインド、インドといえばカレー、つまり、涅槃といえばカレーなのではないか、カレーを食べる為だけに大阪に来たのは、まさに、涅槃の旅であるのではないか、と。 「色男 ホ・セク」「あんなん、こんなん」「官能の奴隷」などのおどろおどろしい手書きフォントを眺めつつ、涅槃の多様性に思いを致すのであった。まだ朝の秋風の吹く新世界の路上では、女装家がギリシア彫刻さながらの気高き様で、黒いスパッツを剥き出しで衣装変えにいそしんでいた。そこ