今の若い人たちは知らないだろうが、昔、地球は冷戦だった。東と西に分かれて、日々核ミサイルが空を飛び交い、迎撃用の核爆弾膜でそれを防いでいた。防ぎあっていた。降り注ぐ核ミサイルの塵は、小麦の価格を下落させ、ビニールハウス栽培のトマトの値段を上昇させた。 そんなとき、大英帝国に現れたのが鉄の女だった。鉄の女は人間なみの頭脳を持ち、鉄くらい固かった。歩くと人より少し遅いが、空を飛べばデ・ハビランド・モスキートよりちょっと遅いくらいの速度が出た。鉄の女は鉄の拳でベルリンの壁に穴を開けては、東ベルリンに厭戦ビラを撒いた。鉄の女はルビヤンカにも無慈悲な大穴を開け、たくさんの政治犯を解き放った。ただ、鉄の女は一人でしか飛べないので、そのあと政治犯たちがどうなったかは知らない。 ただ、鉄の女は鉄くらい固かったけれど、錆びやすいのが問題だった。鉄というのはライトでポップな時代にそぐわないという意見もあった。