地方都市の駅前にあるその商店街は、郊外型大型店舗が近くに出店した影響を受けて営業している店の方が少ないような状態だった。ましてや、夜の9時ともなれば、シャッターを開けている店など一軒もなかった。 司慎吾は、申し訳程度に残っている街灯の明かりを頼りに最近廃業した映画館を探して、商店街の中をさまよっていた。なにかよからぬ計画を立てているわけではない。先日、飲み屋のトイレに置かれていたフライヤーを見て興味を持った、「自主製作映画 ライフ・ボート」の上映場所を探しているのだ。 「自主製作映画 ライフ・ボート 全ての生命のために」 という簡素極まりない煽り文句が客船を背景にして印刷されたそのフライヤーの裏面には、「製作者:ライフ・ボート製作委員会」、「入場料:千円」、上映日時が記載されたほか、上映場所として、商店街の中の廃業したはずの映画館が記されていた。 小劇団の上演場所や自主製作映画の上映場