我々の人生に、重さはあるのだろうか? 例えばたいていの物語では、主人公の〈重さ〉がドラマの起点となる。彼/彼女は逃れられない使命を背負っており、その重荷に耐え、なすべきことをなせるか、というところにドラマが生まれる。重荷は人に試練を与えるが、同時に生きる意義をも与える。 しかし人生というものは本質的に軽い。なぜなら人は一度きりしか生きられないから。 『存在の耐えられない軽さ』冒頭では、この人生の〈軽さ〉についてニーチェの永劫回帰という思想に触れたうえで次のように述べられている。 永劫回帰という神話を裏返せば、一度で永久に消えて、もどってくることのない人生というのは、影に似た、重さのない、前もって死んでいるものであり、それが恐ろしく、美しく、崇高であっても、その恐ろしさ、崇高さ、美しさは、無意味なものである。 永劫回帰の世界ではわれわれの一つ一つの動きに耐えがたい責任の重さがある。(中略)も