平成17年|両忘(著・所長 中祖一誠) 「両忘」ということばがあります。二つのことを忘れることを意味します。是と非、善と悪、美と醜、愛と憎など両者の対立を忘れ去ることをいいます。しかし、現実にはわたしたちは、これらの両者の対立、区別を離れることができかねるのが実状です。 現実の生活では、わたしたちはその都度、二つのことのいずれかを選び取って生きています。“あれかこれか”と自問自答して、二者択一に傾斜しつつ生きています。生きるということは、ある意味で行為的世界に身を置くことですから、止むをえないことだともいえます。また、このことがさして支障をきたさない場合も、日常では多くあることも事実です。 しかし、人生の局面には、時としてのっぴきならない非日常的な事態に直面することもあります。是とすべきか非とすべきか、進むべきか退くべきか、などの文字通り進退窮まる事態は、時としてわたしたちの生存の根