「あのさ、もうちょっと力を抜いたほうがいいんじゃないか? マウンドに上がったおまえは120の力が出てしまう。60ぐらいの力で投げればちょうど100ぐらいになっていい具合になるだろうから、一度そんな感覚で投げてみな」 その選手も、力んでしまう自分の欠点を自覚していたので、納得した。 「そうですね。僕もそう思っていました。やってみます」 そう言って練習に戻ったが、見ていると30ぐらいの力で投げている。練習だから30ぐらいの力でもいい、試合になればどうしても力が入るものだから、ちょうど良くなるだろうと思っていた。 ところが、試合でも30から40の力で投げている。いつもはマックス150キロのスピードが出るストレートが、120キロぐらいしか出ない。たしかに力みはないからストライクゾーンには投げられる。でも、バッターにとっては打ちごろのスピードなので、面白いように打たれる。これはまずい。彼を呼んだ。