サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki photo by Getty Images 【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】アーセン・ベンゲルの凋落(後編) ベンゲルは先駆者だったが、革命家ではなかった。たとえばアーセナルが採っていたイングランド伝統のあか抜けない守備には、しばらく手をつけなかった。「私は変化をゆっくりと持ち込んだ」とベンゲルは言う。彼自身が言っていたことだが、ベンゲルの持つ最高の資質は経験のある人々の声に耳を傾けることだった。 ベンゲルがめざした頂点はチャンピオンズリーグ優勝だったはずだ。彼はトロフィーにほとんど手をかけたことがある。2006年の決勝でアーセナルがバルセロナを1-0とリードしていたとき、アンリがGKと1対1になったシーンがあった。だがGKがこれを防