迷路のようなまちだ。 人がやっと通れるかどうかという路地が、蜘蛛の巣のように張り巡らされている。これを「背戸道(せとみち)」と言う。家の背中の戸、つまり勝手口を結ぶ道路の意味である。 真鶴町は神奈川県の小さな港町だ。人口は七千五百人弱、面積は七・〇五平方キロメートルと、いずれも同県で二番目に少なく、小さい。相模湾に突起のように突き出した半島で、人々は肩を寄せ合うようにして暮らしている。家は港を中心にして扇状に密集し、道路の平均勾配は一〇パーセントと、坂また坂の道を階段がつなぐ。交番の警察官が「バイクで回っていると、すぐに階段で行き止まりになります。赴任から一年以上経つのに道が覚えられない」と苦笑するほど入り組んでいる。 その背戸道を歩くとタイムスリップしたような感覚に襲われる。懐かしいと言うべきか、開発から取り残された昭和の香りがする。 「私達には普通のまちだけど、このところ背戸道を歩きに