アリストテレスといえば、古代ギリシアの哲学者であり、「万学の祖」としても知られる人物だ。ただ、その著作は抽象的で難解だと思われがちであり、読むことを躊躇している人も少なくないのではないか。 しかし、本書は現代でも通用するれっきとした実用書である。アリストテレスは、弁論術を「どんな場合でも、可能な説得の方法を見つけ出す能力」と定義した。「弁論は経験による『慣れ』にすぎない」としたプラトンを否定し、成功の原因を観察し方法化することによって、弁論を「技術」として成立させようと試みたのである。 聴き手の心を揺さぶって判断を歪めさせる従来の弁論手法ではなく、説得の根拠となる材料を集め、論理的に積み上げていく手法を、アリストテレスは重視した。それは本書自体が、頑強な論理の積み重ねから成り立っていることからも明らかだろう。たとえば、「よいもの」「幸福」といったよく使われる言葉についても、意味を曖昧にさせ