戦後最大の思想家、吉本隆明さんが亡くなった。晩年まで衰えることなく独自の思考を重ね、筆を執り、日本と世界の状況に鋭いまなざしを向け続けた。思想界の「巨星」にふさわしい87歳での大往生は、「戦後」と呼ばれた時代の完全な終わりを告げるものといえる。【大井浩一】 【写真特集】吉本隆明さんの1970年代からを写真で振り返る 終戦時、20歳だった吉本さんは文字通り青春を戦争の中で送った「戦中派」だ。自分がかつて皇国青年だったことを、戦後も一貫して公言していた。文学活動は詩作を通じ、生きる意味を徹底して問うところから始まるが、背景には敗戦に伴う深い喪失感と、一転して民主化を掲げた周囲への違和感があった。 「時代のイデオローグ」と見なされるようになったのは、1960年代の学生運動を通じてだった。60年の安保反対闘争では反日共系の全学連主流派と行動をともにした。運動の挫折体験を通じ、「自立」「単独者