“無心”であることの難しさと効用 (田中 秀征=福山大学教授) 先日、所用で京都に行ったとき、時間を割いて琵琶湖畔のホテルに足を延ばした。将棋の王将戦第2局が行われていたからだ。 幸い短時間の公開大局で、羽生善治王将と挑戦者の久保利明八段の対局姿も観ることができた。 対局室は湖の際にあり、全面ガラス張りで琵琶湖が一望できる。ちょうど雪が降りそそぎ日本画のような風情であった。 羽生王将は、静かに琵琶湖を眺めていたかと思うと、正面を向いて駒を取り上げ、ピシッと小さな音をさせて一手を指した。そして、また雪の湖に目を向けた。何とも言えない風格があった。 1996年に、彼が将棋の全タイトルを獲得して7冠王に輝いたとき、将棋ファンの私も祝賀パーティーに駆けつけてお祝いのスピーチをした。 今回もそのときのことを思い出した。羽生さんの新鮮さは10年前と少しも変わらなかった。 第一人者は常に