現役プロ通訳者が通訳現場のさまざまな話題やこぼれ話を語ります。5回目の今回は、英語医療通訳者の押味貴之さんが、医療現場での通訳体験を紹介します。 足すべきか足さざるべきか「タナグラのダーモクとジラードだ」。理想の通訳を説明するときに私がよく引用する『スタートレック』でのせりふだ。 協力 を申し出るピカード船長に対し、タマリアン星人が冒頭のセリフで応答するが、意味の分からないピカード船長は「一体何の話をしているんだ?」と困惑する。 もしもここで優秀な通訳者がいれば、このタマリアン星人の返答は「その昔、ダーモクとジラードという敵対する者同士が、互いの利害を忘れ、タナグラという場所で共通の敵と戦ったように、われわれもあなた方と共に戦おうではないか」と通訳できたはずだ。 このように 理想の通訳者には元の表現に「足したり引いたり」しながら、話し手同士が理解できる表現に上手に変換することが求められる