辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。 まずは以下の文章をお読みいただきたい。 「おまえ、笑うと普通にかわいいんだよな。どうせならスマイルの練習もしとけ。笑顔が足りねえんだよ、おまえは」(平山瑞穂『マザー』2008年) 文中にある「普通にかわいい」だが、かわいいのかどうか疑問に感じなかっただろうか。「普通」という語には、名詞・形容動詞としての用法と、副詞としての用法があるのだが、名詞・形容動詞としての「普通」は、ごくありふれている、珍しくない、特に変わりがなく平均的、一般的であるという意味で使われる。つまり、ニュートラルな意味合いか、時として「変わりがない」「平均的」というマイナスの意味で使われてきた。 ところが引用文の「普通にかわいい」は、ニュートラルの意味合いどころかプラスの意味で使っているよ