Photo by Toyota Motor Europe 母が入居する介護施設『やまぶき』の駐車場には、オレンジの86が停まっていた。 妻の車CX3の助手席から降りた妻は、その86に歩み寄るとナンバープレートをまじまじと見つめた。低木の垣根に接している後部に回り込んで首を伸ばし、やがて私の元へ歩み寄って言った。 「この車だわ」 先週、介護施設から帰る途中に、無謀な運転のオレンジの車のせいで事故にあいかけた。「この車」がその時の車を意味していることは、いつも妻に察しが悪いと言われている私にもすぐにわかった。 『やまぶき』はM市の郊外にあって、高速の出口からM市の市街をかすめてたどり着くまでには、しばらくカーブの多い里山の中の道を走らなければならない。 先週、用事で行けない僕の代わりに、妻がひとりで『やまぶき』に向かっている時、右回りのカーブから飛び出してきた対向車がすべって、妻の車に衝突し