中国のベストセラーSF小説「三体」の邦訳が七月に早川書房から発売され、一カ月で十万部(電子版含む)を超えるヒットとなっている。「SFファンがSF作家になった」と自らについて語る著者の劉慈欣(りゅうじきん)さん(56)は発電所の技師として勤務するかたわら、壮大なスケールの作品を生み出してきた。「小さな人間と大きな宇宙との関係を描こうと努力してきた」という創作の過程を語る。 北京に生まれ、幼いときに父の仕事の都合で炭鉱の街だった陽泉に移った。それ以来、大学四年間を除いてずっと陽泉で暮らしている。大学卒業後は火力発電所でコンピューターの技師になり、三十年近く務めた。中国では転職が一般的だが、私はずっと同じ職場にいた。SF小説を書きたかったからだ。仕事が安定して忙しくなく、余暇の時間が十分にあれば、仕事に求めるものはそれ以上にない。発電所は(約四百キロ離れた)北京の空気が悪くなって閉鎖されたが、二