ロマン・roman・長編小説(英語では物語はstory、長編小説はnovel)は主人公が物語展開の主軸の位置にあって成立する。しかも主人公はなんらかの典型的な性格や主張を有し、それが登場人物の行動になつながり、小説の筋を構成し、物語を展開させる。 すでに見てきたスタンダールの『赤と黒』や、ビクトル・ユゴーの『レミゼラブル』の主人公たちはそれぞれの個性と観念(理想とか理念など)を所有していた。したがってバルザックやフローベル、トルストイやツルゲーネフら19世紀の作家の小説はすべて「物語」だった。それは20世紀フランスでreci(レシ=語り)として取りあげられるものと結びついている。 本格的に物語が解体されてアンチ・ロマンというジャンルが発生するのは20世紀の60年代だが、それより1世紀前に実はドストエフスキイが『地下室の手記』(1864)で意識的な物語解体を実行している。 第一にドストエ