信号解析のための数学的手法であるウェーブレット変換とその材料研究への応用 名古屋大学工学研究科マテリアル理工学専攻 武藤俊介 1. はじめに 実験によって科学研究を進めていく場合には、一般論として大きく分けて二つの観点があろうかと思われる。一つは知覚領域を拡大すること、即ち空間・エネルギー・時間などの分解能の向上、あるいは異なる手法との組み合わせを図って従来得られていなかった情報を得る努力である。もう一つは既存の知覚領域の洗練化、即ち現在の手持ちの実験技術の向上や新しい解析手法の開発などである。我々は研究者としてどちらかまたは両方の観点を(スタイルに応じて)使い分けるわけであるが、お金と時間と知恵の有無によってどのやり方が当面のベストチョイスかを決定することになる。 これから紹介するウェーブレット変換の応用はさしずめ上の第二の範疇に属すると位置づけられるであろう。ウェーブレットはこ