福島第1原発3号機の上空に、陸上自衛隊のヘリが近づいていく。消防総監の新井雄治(60)は、ひそかな期待をかけていた。情報のほとんどない現場に部下の命を懸けることは避けたい。ヘリの放水で使用済み核燃料プールの水位が満たされれば、出番はなくて済む。11年3月17日午前9時48分。祈りを込めた放水が始まった。 ◇ ◇ 警防部長の佐藤康雄(59)は荒川河川敷の第6方面本部にいた。出動命令はまだない。総括隊長の高山幸夫(55)率いる第8方面本部と第3方面本部のハイパーレスキュー隊員らを集め、現地を想定した放水訓練を始めていた。地上30メートルの位置にある3号機プールへの放水。立てた作戦は三つあった。 安全なのは、大型化学車で車内からの操作で、放水する。しかし、大量放水が不可能で実際には使えない戦術だった。もうひとつは、40メートル級のはしご車による放水だ。高さは十分だが、打ち込める水は毎分1万リッ