野田◯彦は緊張していた。今日は党首討論の日である。 政権与党の党首、つまり総理大臣である野田にとって、この日は毎回苦痛でしかなかった。 もちろん、自分の施政のミスを野党から直接突かれることが辛いというのも一要因であり、逆に質問をする側に回ったときもこれまであまり実入りのある結果を出せていない。 しかし、それ以上に辛いことが、国会に向かう足を鈍らせるような事実が人知れず、野田にはあったのだ。 党首討論が始まった。野田の眼前にいるのは、かつて長年に渡り政権与党として鎮座し、先の解散総選挙で野党へと転落した某政党の党首、谷垣である。 今日も自分に向かって何かを叫ぶ谷垣。当然といえば当然なのだが、その言葉は野田の耳を素通りしてゆく。 野田の熱い視線が必死に何かを語り続ける谷垣の表情に向けられていた。地味で冴えない男だが、野田の心を掴んで離さない男。 そう、野田は谷垣に恋慕の情を抱いていたのだ。だか