8×8マスの盤上中央、中心から点対称の位置で2つのビショップが睨み合っている。 羽生、そしてカスパロフの指先によって操られた駒と駒は、互いを牽制するように小刻みなステップを踏んでいく。 カスパロフ、羽生、カスパロフ、羽生...。 手が進むにつれ、大盤解説会場の空気は緩んでいった。解説担当で、いずれもチェス元日本王者の塩見亮と小島慎也が「スリーフォールド・リピティション」となることを確信し、局面を語り始めたからだ。つまり、将棋で言う千日手模様だ。両者が同一局面を指し続け、ドローになると結論付けたことで、直前まで保たれていた緊張は一気に弛緩した。 選択権を持つカスパロフにとって、ドローは異存のない結果だったはずだ。白(先手)での第1局では羽生に圧勝しており、第2局をドローとしても1勝1分で「羽生に勝った」ということになる。チェスは引き分けの割合が多いゲームで、国際的プレイヤー同士の対局
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