ノーベル賞作家・大江健三郎が、昭和36年(1961)に発表した『セヴンティーン』第2部「政治少年死す」は、前年に起こった社会党委員長・浅沼稲次郎暗殺事件をテーマにしたものです。主人公の17才の少年(モデルは犯人の山口二矢)の性的描写などに右翼が激怒、作者は生命を脅かされ、出版社も公式に謝罪したといういわく付きの作品です。以後40年近く、現在までこの小説はいっさい公刊されていません。 個人的には名作だと思うので、あらすじを紹介しましょう。底本は昭和36年2月の「文學界」です。 なお、原作は現在まで封印されている上、もちろん著作権は切れていないので、ここに引用した文章は無断引用となります。ただし、これはあくまであらすじの紹介であり、この程度の引用は著作権上も許されるのではないかと思います。 また、この作品の紹介はあくまで文学史の一部として紹介するものであり、ぼく個人の政治的な思惑により紹介する
政治少年死す (セブンティーン第二部) 大江健三郎 1 夏はまさにあらわれようとしていた、空に、遠くの森に、海に、セヴンティーンのおれの肉体の内部に、夏は乾いた鋪道の地面にむかってゆるめられる消火栓からの水のように盛んに湧こうとしていた‥‥ おれは雨あがりの朝、左翼たちの集団が包囲をといた国会議事堂前広場を、青年行動隊の仲間たちと訪れて缶ビールを飲んだ、勝利を祝うために。おれは勝利にわずかながら酔い、そしてもっと豊かな寂蓼感を頭のなかに、また胸のなか躰中の筋肉のなかに熱いむずがゆさのように育てた。左翼たちは石器時代の人間のように石をその武器とするために、現代の工夫が固めた鋪道の石を剥ぎとっていた、その剥ぎとられ掘りおこされた鋪道の上に、おれは踏みにじられた娘の死骸の幻影を見た。もっと多くの死骸がそこに横たわるべきだったのだ、左翼どもの暴動、市街戦、そして雪のふりしきるさなかまで、
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