僕のお気に入りの場所がまたひとつ失われてしまった。職場の向かい側にある書店だ。いつ、閉店になったのか定かではない。夏が終わり、秋になって、僕が、うつむいて、アスファルトを見ながらトボトボ歩いているうちに閉店になっていた。今日、仕事を終えてから立ち寄ると、看板は撤去され、張り紙もない無機質なシャッターが灰色の壁をつくっていた。 その書店には男性しかいない。店内の一人一人が、自分だけの世界を構築していて、狭い店内をすれ違う際も、目線を合わせたり、「すみません」と声をかけるようなことはしない。店主と思しき人も、雰囲気を重んじ、客と目を合わさない。それが暗黙のルール。店内にいる誰もが干渉を拒み、孤独を楽しみ、己の求めるものに没頭する、静かな熱情の世界。そう、そこはエロ本屋。なぜか駅前のメインストリートにあるエロ本屋。買い物に訪れた家族連れや、登下校の学生や、腕を組み体を寄せ合う恋人たちがひっきりな