十六、エピローグ 千葉島に夏が訪れ、秋に変化し、そこに冬が忍び寄ったかと思うと、また春に取って代わられた。その単調な繰り返しがどれだけ続いたことだろう。 鈴木はサチコの残した髪の毛を桐の箱に入れ、押入れの奥深くにしまいこむと、季節の移ろいにも、日々の生活にも一切無頓着になっていた。 あの日以来、毎日の虚ろな気持ちをやりすごすため、仕事に打ち込み、週末も工場に通った。髪の毛を売りに来る娘たちの相手だけは、ほかの工員にまかせた。幸い、海外向けに醤油の輸出の話もきていて、工場の景気は上向いてきていた。仕事は山のようにあったので、それに没頭しているとしばらくはサチコのことを忘れられた。 しかし、集中力が途切れたときにふと、サチコがいなくなる前の晩のやりとりがよみがえることがあった。頭の中で、鈴木は何度サチコにあの時とは違う言葉をかけたことだろう。鈴木が「ずっとこの家にいなさい」と言うと、想像の中の