「やめろよっ! ぼくが何したって言うんだよっ!」 俺はなにも答えず、まだ半分残っている煙草を灰皿に押しつけた。それが自分の中で仕事開始の合図だった。俺は仕事中はタバコを吸わない。少年を抱きながら煙草を吸うわけにはいかない。そんなことをして、万が一、商品に火傷の痕でもついたら信用にかかわる。 ここは俺の仕事場、とあるビルの地下室だ。厳重な防音が施されていて、喉から血が出るほど叫んでも、上の階には蚊の羽音ぐらいにしか聞こえない。 「離せよ! 家に帰らせろ!」 「まあ……そう急ぐな」 今回の仕事の相手、じまじろうを見おろす。トラ獣人のじまじろうくん、ベヌッセ社のイメージキャラクターだ。少年は手足を拘束され、おびえきった顔で見知らぬ俺を見上げている。 じまじろうは手錠をかけられ、バンザイをしたかっこうで壁に拘束されている。壁ぎわにすわりこんだような格好だ。足は……後ろ脚といったほうがいいのかも知れ