『寝ても覚めても』がとても良かった。 この映画に出てくる登場人物たちは、自分の感情や正義に忠実に生きている。彼らの主義や言動は“一般的”には凡庸だったり反動的だったりもするけれども、本人たちにとってそれはとても切実なもので、たとえ人間関係が決定的に破綻するとしても、彼らは自分の思いに素直に行動する。その清々しさに胸を打たれる。 そう、『寝ても覚めても』はとても清々しい。濱口竜介作品に対して人が「真実」という言葉を使いたくなってしまうのもむべなるかな、この映画には登場人物それぞれにとっての真実が鮮明に刻まれていく。 劇中もっとも苦々しいのは、4人の若者がマンションの一室に揃うシーンだ。舞台女優として活動する女の演技を映像で見た初対面の男が、こんなのは全然ダメだとののしる。あんたのやってることは中途半端だ、と言って怒りをあらわにする。はじめて4人で顔を合わせた面々の食事会がとても気まずい空気に