稀に来る人と言ふ意義から、珍客をまれびと[#「まれびと」は罫囲み]と言ひ、其屈折がまらひと[#「まらひと」は罫囲み]・まらうど[#「まらうど」は罫囲み]となると言ふ風に考へて居るのが、従来の語原説である。近世風に見れば、適切なものと言はれる。併し古代人の持つて居た用語例は、此語原の含蓄を拡げなくては、釈かれない。 とこよ[#「とこよ」は罫囲み]の国から来ると言ふ鳥を、なぜ雁のまれびとと称へたか。人に比喩したものと簡単に説明してすむ事ではない。常世(トコヨ)の国から来るものをまれびとと呼んだ民間伝承の雁の上にも及んだものと考へられるのである。 古代の社会生活には、我々の時代生活から類推の出来ない事が多い。我々は「わいへんは」の曲や、「珠敷かましを」の宴歌を見ても、明治大正の生活の規範に入れて考へる。社会階級の高い者から低い者を訪問する事を、不思議と感じる事の薄らいで来た、近代とは替つた昔の事