東京には、日本酒を楽しめるエリアが数多くあります。千代田区の神田もそのひとつ。 神田における日本酒人気の高さは、江戸時代の様子を残した資料からも知ることができます。江戸のにぎわいを描いた『江戸図屏風』では、神田の町筋にある、軒先に酒林(さかばやし)を掲げた3軒の酒屋が描かれています。また、加藤曳尾庵(かとう・えびあん)の著書『我衣(わがころも)』には、神田の豊島屋酒店が店先で大きな田楽を焼き、他の店よりも安く酒を売るという、当時としては革新的な方法で評判を呼んだことが書かれています。 今回は、多くの居酒屋でにぎわう神田と、この土地に縁の深い造り酒屋「豊島屋酒店」が造った新しい日本酒について紹介します。 1596年、豊島屋酒店は江戸の神田鎌倉河岸に酒屋兼居酒屋を開きました。当時は、上方から運ばれてきた酒、いわゆる「下り酒」を大量に仕入れ、それを安く販売したことで人気を集めます。明治後期には自