ふと気がついたのだが、最近、蝿を見かけなくなった。この夏、わたしは一匹も蠅を見なかったし、よくかんがえてみれば、「この夏」どころの話ではなく、ずいぶん長いあいだ、蝿が飛んでいるのを見ていない。これは東京に住んでいて感じることで、それ以外の地域ではどうなのかわからない。未だ元気に、ぶんぶん飛びまわっているのかも知れない。ただすくなくとも、もはや東京に蝿はいないような気がする。ことによると、あいつらは絶滅したのだろうか。具体的なことはわからない。 しかしまあ、いなくなったからといって、なんだというのだ。べつにいいじゃないか。もともと、スプレーで退治するような種類の生きものだったわけだし、いたとしても、うっとうしいだけである。ああ、せいせいしたよ。夕飯のおかずが盛られた皿のまわりを、いつまでも騒がしく旋回したりして、あいつが一匹いるだけで、どうも落ち着かなかった。とはいうものの、蝿が絶滅したとな