Prologue 疲れる通学路から始まる物語 駅を出て、山を登る。それから、谷を下り、再び山を登る。これが、僕の通う高校に至る道だ。ごく控(ひか)え目に言って、かなり疲れる通学路だ。 通学の苛酷(かこく)さの穴埋めなのか、カリキュラムは緩(ゆる)い。僕たち2年I組は、水曜午後の授業がない。3年生になるとさらに授業は減り、月曜から金曜まで午後の授業がまったくなく、日によっては1限もない。なぜ、これほど緩いカリキュラムになったのか、については、おいおい語る(かもしれない)。 僕は、4月の第2水曜日の放課後、ちょっと変わった社会人、というより、半社会人、あるいは反社会人たちに「赤ひげ小人(こびと)」で出会った。それがキヨミズ准(じゅん)教授とワタベ先生だった。 「赤ひげ小人」は、県立図書館の脇(わき)にある古ぼけた喫茶店だ。マスターの倉井さんは、ロボットのように生真面目(きまじめ)で、掃除と紅茶