俺はバスジャックテロに遭い、一度死んだのに時を繰り返し、再びバスジャックされたバスに乗っている。 犯人の格好を確認する。 目出し帽で顔を隠し、紺色のもこもことしたダウンジャケットを着て、黒いリュックサックを背負っていた。ザ・強盗犯というわかりやすい格好だ。 「いいから、このまま走らせろ!」 と運転手に命令をしている声は、聞き取り辛く、呂律が回っていない。テロを起こそうとしているのがバレ、逃亡しているから興奮状態なのだろう。よく見れば目が血走り、視線が定まっていないように見える。 だったら、こちらは、相手をなだめる方向に持っていくしかない。 「あのー」 両手を挙げて、抵抗をするつもりがないですよ、とアピールをする。 「なんだよ、お前は黙って、そのへんの席に座ってろ」 犯人があごでしゃくり、空いているシルバーシートを示す。咲子さんたちとすれ違い、ゆっくりとそちらに移動しながら、俺は精一杯柔和な