財団法人東京顕微鏡院 理事 伊藤 武 まえがき 2011年4月中旬より富山県、福井県、横浜市において焼肉チェーン店を利用した人が腸管出血性大腸菌O111による食中毒を起こし、4名が死亡した。原因食品は焼肉店で提供されたユッケと焼肉(カルビ、ロース)であると考えられた。原因菌が一般に広く知られていなかった腸管出血性大腸菌O111であるので、本菌の特徴やこれまでの発生状況について紹介する。 腸管出血性大腸菌とは 腸管出血性大腸菌は1977年にカナダのKonowalchukらが発見した新しい病原大腸菌で、ベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞)を破壊する毒素(ベロ毒素)を産生することからベロ毒素産生性大腸菌と呼ばれた。1982年に米国においてハンバーガーを原因とする食中毒が発生した際に患者から分離された大腸菌O157がベロ毒素を産生することが明らかとされた。 患者の症状は重篤で、殆どに出血性