これは8月20日急逝された翻訳家の山岡洋一さんが、盟友・仁平和夫さんの死を悼み、主宰していた「翻訳通信」別冊「仁平和夫小論集 翻訳のコツ」の冒頭に記した文章である。 名前を置き換え、享年62歳と改めれば、そのまま山岡さんへの追悼文となるものだ。付け加えるなら、明治以来の直訳翻訳の伝統の刷新を試みたアダム・スミス『国富論』、ケインズ『説得論集』、ジョン・スチュアート・ミル『自由論』の古典3作品の成果を特記しなければならないだろう。 「生産力」を「生産性」と訳して一石投じる 山岡さんの古典新訳は、その平明な文章で多くの読書人に歓迎された。2007年に刊行された『国富論』では従来、「生産力」と訳されてきた「PRODUCTIBITY」を「生産性」と訳し、一石を投じた。経済学界では伝統的に「期待」と訳されている「EXPECTATION」を「予想」ではないのか、と問題を提起してもいた。そうした仕事や発