昔、父から言われたことを思い出した。 「賢い男は水から卵をゆでる。バカな男はお湯から卵をゆでる。そしてバカはヒビを入れちまう。お前はどっちになるんだ?」 あの頃の私は幼く、何と答えればいいのかわからなかった。 食券機の「並盛」ボタンを押し、電子マネーで触れる。 甲高い電子音を立て吐き出されてきた食券を取り、店内へ滑りこむ。 【スポンサーリンク】 カウンターのみで鰻の寝床を思わせる縦長の店内。 猫背でスーツ姿の男性客が何人もスツールに座り、ひたすらどんぶりをかきこんでいる。 箸が丼に当たり、まるでカツカツ音を立ててリズムを響かせる。 その姿は、ひたすら餌をあさるブロイラーのようにも見えた。 主曰く、人はパンのみにて生きるに非ず。 されどまた曰く、人民にパンと自由を、労働者諸氏に牛丼と小遣いを。 私は空いたスツールを見つけ、腰を下ろした。 目ざとく見つけた店員が駆け寄り、水を突きだす。 「……