文豪森鴎外の息女であると謂う一点以外、森茉莉氏のことには知識を持ち合わせていません。偶さか近場の書肆を訪った折に其の一角にちくま文庫の展示即売があって、置かれていた一冊を購いました。「贅沢貧乏のお洒落帖」と謂う書名に惹かれるものがあったからでしょうか。お洒落なぞには年老いて猶珍紛漢紛、口脇白いだんなですが、著者の炯眼と見識の高さ、調子の高い詞藻に惹かれました。欧羅巴の美意識と江戸の粋が錆びて合わさったような洗煉が心地良いですね。 喩えば「たばこ随想」との章にある一文を引きますが、 新橋寄りのこれも右側に「三浦屋」という洋酒の老舗があり、私はそこでよく、玩具のような小瓶の三つ星のコニャックや、ミス・ブランシェという五色の薄色の紙で巻いた煙草なぞを買った。 とあります。何だかお洒落ですけれど、氏は本當には煙草を喫むのが「から下手」で、一箱買うと「十九本か九本余って誰かにあげてしまう」。此のシガ