「ナナ……」 自室で本を読んでいると、隣りの部屋から先に床に着いた夫の寝言が聞こえてきた。ナナ…。 まるで恋人の名を呼んでいるかのような愛おしい声で夫は言った。わー、気持ち悪い。 私はアイスコーヒーをゴクリと一口飲み、本に気を戻した。 「ナナ…きて」 パサッと寝返りを打った音と、ンゴォーという鼾声の後に夫がまた口走った。ナナ…きて?。まるでベッドの上で恋人を待ち構え両手を広げたような声だった。わー、ろくでなし。私は活字を目で追いながら、ギューッと本を強く握り締めた。 「ナナ…もう一回」 しつこい。心配になりそっと夫の部屋を覗きに行くと口を開けて熟睡している夫がいた。ナナ…もう1回。まるで今夜は寝かせないぜと、赤マムシでも飲んだかのような声だった。わー、脂ギッシュ。私は読んでいた本を夫の股間目掛け投げ捨て天を仰いだ。当たらなかった。 「ナナ…最高」 夫が病んでいる。なんだか居た堪れなくなり、