一郎 若き日のほろ苦い思い出話です。 ボディの側面に白抜きで、有限会社林工務店、とロゴが入ったオリーブグリーンのカローラバンは京葉道路から千葉東ジャンクションを抜け、東金道へ入った。 「そのうち中曽根が総理候補になるけど、太一くんたちの世代はそれを阻止しないとだめだよ」 ぼくが運転する後ろの座席から坂下さんはいった。 「はあ、何故ですか?」 「あれが総理大臣になったら、徴兵制度ができてきみは兵隊に取られるからね」 坂下さんはぼくのバイト先の内装工事店に住み込みで働く職人である。五十を過ぎた独身で、ことあるごとに政治や経済の話をしたがる困ったおじさんだ。 「太一くん、プラント輸出って知ってる?」 ぼくがいい加減に応じると、坂下さんは待ってましたとばかりに、おそらくは新聞で仕入れた、プラント輸出、についてとうとうと語りだす。親方格の黒川さんは苦々しい表情で助手席に座ってタバコを吹かしている。ぼ