野崎泰伸 はじめに 「生きるに値しない生」が存在するのであれば、当然「生きるに値する生」も存在する。「生きるに値しない生」という概念は、裏を返せば「生きるに値する生」の生きる権利を画定するものでもある。 功利主義の主流は、「生命の質」をよりどころにしながら、「生きるに値しない生」の存在を肯定してきた。つまり、「生命の質」──意識があったり快苦が感受できたりすること──が低い生命は、「生きるに値しない生」なのである。そして、そのようなメンバーは、生きていても死んでもどちらでもよい、すなわち、生きることが権利ではない。よって、その生にかかわる周りの者の選好により、殺すことも正当化される。 本稿では、以下のような3つの立場に注目する。 (1)すべての生は無条件に肯定される (2)生のなかには肯定されるべき生と否定されるべき生がある (3)すべての生は無条件に否定される 多くの功利主義者は、「生命