森瑶子という人。「嫉妬」という作品で初めて出会う。確か初版の頃。読んでいて、書く人間の痛みを強烈に味わった記憶。さらさらとした痛み、どくどくと血を流すような痛み、かさぶたをひきはがしていくような痛み。 情事 嫉妬 誘惑 熱い風 傷 痛みを感じたのはこの辺まで、だったと思う。「夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場」というエッセイで、自身が受けたセラピーの記録を書く。母親との関係、自身の中の母親の存在。その問題性に気づいたときに、セラピーをやめる。つまり自分の傷の解決から「下りる」。解決したら書けなくなってしまう。書くことを選ぶ、と。 この後からか、そのくらいからか、だんだんと「シャレたストーリーテラー」になっていき、軽く読める本はそれなりにはおもしろいが、痛みは感じなくなった。女かくあるべき、みたいなエッセイも、わたしには鼻白むものが多くなった。 亀海昌次と共著の「おいしいパスタ」。文庫本では亀