イマニュエル・ウォーラーステインが逝去した。世界システム論を提唱し、人文学・社会科学に広範な影響を与えた彼の仕事を三つの著作で振り返る。 まず主著中の主著は『近代世界システム』、特にその第1巻である。アフリカを専門とする政治社会学者としてすでに米国のアフリカ学会を代表する研究者であった彼が、44歳で「世界システム論」という新しい学を切り開いた記念碑的著作である。同書は当時の社会科学が閉じ込められていた三つの前提を覆すものであった。 地球規模の理論 一つは一国的アプローチ。彼は「社会」といえば暗黙に国民国家が前提となる発想を批判し、社会科学は「史的システム」を単位として再構築されなければならないと主張した。 二つめは冷戦的思考。当時は国内問題でも国際関係でも、あらゆることが資本主義と共産主義の対立として捉えられがちであった。ウォーラーステインはそれを偽の二分法だと批判し、私たちが生きている資