春日武彦(1951~)という精神科の先生がいる。松沢病院医長、墨東病院精神科部長など、精神科医としてバリバリの王道コースを歩みながら1993年「ロマンティックな狂気は存在するか」で作家デビューし、以後臨床経験に裏打ちされた独特のエッセイを書き続けている方である。 私が春日先生の著作に初めて出会ったのは、高校3年の末期。国立大の前期試験が終わって結果待ちの宙ぶらりんな時期だった。 かなり手ごたえがあったのでほぼ合格は確信していたものの、落ちていた場合に備え後期の勉強もせねばならないがいまひとつ身が入らない。家でゴロゴロしていたら、居間に放置されていた春日先生の「不幸になりたがる人たち」(文春新書)が目を惹いた。父が読みかけのまま放置していたものだった。今にして思うと、ああいう人生の奇妙な「凪」の時期に精神科医の本に出会ったのがその後の進路を暗示していたようだが、それはともかくとして本の内容は