新海誠作品は野菜の切り方がいい。たとえば、『言の葉の庭』のトマトとゴーヤを手際よく切って盛り付けていくシーン。タンタンタン、とリズミカルに切っていくのが新海流。 ここで作っているのは冷やし中華。思春期の“苦み”を描く作家らしく、盛り付けの野菜も苦みで選ぶのか、と当時は穿った見方をしてしまったのだけど、真相は奥さんの作るものを参考にしたようで。「新海さんちの冷やし中華」だったのだ。 ところで、新海アニメの「食」はちょっと変わった特徴を持っている。食卓に「不在」が並ぶのだ。父親か母親、もしくは両方いない状態で食事をすることが多く、一家団欒に不在が何気なく横たわっている(近作はそれが当たり前になってきている気もする)。最新作『君の名は。』でもそうだし、『言の葉の庭』や『星を追う子ども』を振り返っても同じ。食卓の風景にも新海の代名詞である「喪失感」が入り込んでいるわけだ。例外はショートフィルム・N