ジダンの勢いよく、決然たるヘッドバットは何かを振り切ろうとするかのように見えた。いったい何を振り捨てようとしたんだろう? フランス国民の期待?「時代を背負う天才」としての重圧? あれは自殺だった。たぶんジダンは誰かに殺して欲しかったのだ。 本来ならば、今回のワールドカップはジダンの大会になるはずではなかった。すでに盛りを過ぎたジダンとフィーゴが記憶されるような大会であってはならなかった。でも、ベッカムと高給取りの仲間たちはあまりに無能だったし、ロナウジーニョと世界一の攻撃陣はサンバを踊っていただけだった。アフリカからのお客さんはヨーロッパ諸国の老獪さの前になすすべを知らなかった。ドイツは可能性を感じさせたけれど、いかんせんチームとして若すぎる。だからジダンとフィーゴとロナウドと2002年大会の残像たちにとどめを刺せるのはイタリアしかなかったわけである。でも、そのイタリアでさえ、トッティがヴ