先行公開日:2020.12.27 一般公開日:2021.1.30 蜂本みさ「冬眠世代」 7,363字 工場を誰よりも遅く出て誰よりも速く走る。スグリの赤毛は遠くからでもよく目立つし、工場から村まではほとんど一本道だから、そうやって一熊一熊追い抜いていけばぜったい会える。ちんたら歩く列の脇をすり抜けて枯れ草の上を急いでいると工場仲間が次々声をかけてくる。ツブテ、夢で会おうな。また春にな。寝すぎてなめし方忘れんなよ。冬眠組は今日で仕事じまいだった。おれだってちょっと名残おしいけど今はスグリだ。だって冬眠組の仲間とはいつでも会える。スグリには今日を逃したら来年の春まで会えない。 だんだん肺が苦しくなってきて、口からもれた白い息がふっ、ふっ、とうしろへ流れていく。夕方の空気はもうずいぶん冷たい。脂肪をたくわえた腹がひざをきしませてもかまってられない。遠くに赤い頭が見えた瞬間体の重さがぜんぶ吹っ飛ぶ