大倉隆二『宮本武蔵』人物叢書新装版、吉川弘文館、2015年2月 剣豪、そして深い教養を持つ文化人として知られる宮本武蔵だが、壮年期までの武蔵について確かなことはごくわずか。 武蔵の実像がよくわかるのは、晩年に肥後の細川家に客分として迎えられてから世を去るまでの5年足らずの間だけ。 有名な吉岡一門との勝負、巌流島の決闘でさえ、わからないことの方が多い。 本書によれば、史料から確実に読み取れるのは、武蔵が京都で「天下之兵法者」と数度にわたり戦って勝ったこと、巌流島で武蔵が「岩流(巌流)」と勝負して武蔵が勝ったことだけらしい。 巌流島の決闘の相手「岩流(巌流)」の本名は一般に「佐々木小次郎」の名で知られているが、史料によっては別の名が記されており、確かなことは言えないようだ。 著者は、これまで武蔵の生涯に関する基本史料とされてきた小倉の顕彰碑、いわゆる「小倉碑文」の史料批判や、信頼は置けるが圧倒