世界各地の貧困を問題視する声はよく耳にするし、その原因として、先進国の欲求を満たすためのアンフェアな経済取引の存在がしばしば指摘される。ところがこの本の核心はそこにはない。著者が暴き出すのは、フェアトレードや低開発国援助という美名がもたらす不正義である。すなわち、「倫理」そのものがうまい商売になるということだ。 たとえば、ニカラグアの港町では長時間の潜水により減圧症に苦しむ男たちが多数いるという。しかし、シーフードレストランを展開する企業のウェブサイトには「人にやさしく社会に責任をもつ」と書かれ、「浅瀬の潜水で、手でつかまえた」食材しか買わないとされている。実際、どれが手づかみか確かめようもないが、これは安価で海産物を食べたがる消費者に後ろめたさを感じさせないための巧妙な方法である。 また、ラオスでは、アヘンの原料となるケシからの転作を促進するという美名のもと、現地政府と取引した隣国資本が