「わたしこまってしまうわ、おっかさんにもらった新しい外套が見えないんですもの。」 「はやくおさがしなさいよ。どのえだにおいたの。」 「わすれてしまったわ。」 「こまったわね。これからひじょうに寒いんでしょう。どうしても見つけないといけなくってよ。」 中略 「こまったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」 「わたしとふたりでいきましょうよ。わたしのをときどきかしてあげるわ。こごえたらいっしょに死にましょうよ。」 東の空が白くもえ、ユラリユラリとゆれはじめました。おっかさんの木はまるで死んだようになってじっと立っています。 『いちょうの実』宮沢賢治これは、宮沢賢治の『いちょうの実』という童話。 秋、いよいよ旅立つ日の明け方、水筒にお水を詰めたり、貰ったばかりのハッカ水をちょっとだけ隣のきょうだいに披露してみたり、かと思えばぶどうパンを持っているから分けてあげようと話し

